以前、毎月発行されている書道の教本「玄粒誌」の巻頭言にて書かせていただいたお話です。
2010年9月
あたらしい空
増子 史織
三年程前、京都で建築インテリアの勉強をしている頃、
京都の町屋をはじめ、昔ながらの家づくりや、街並みに興味を持ち、
地元福島も調べてみようと、大内宿を訪ねました。
兄の友人から、大内宿に住む方を紹介していただき、お話を伺うことができました。
その方は、大内宿の茅葺屋根を守るべく、伝えるべく、「結いの会」 を結成し、活動をされている方でした。
「これからは、IT時代ではない。大切なのは「愛と手」なんだ。」
「めんどくさいをやっていくこと」
「燃えないように、燃えない素材にするのではなくて、燃えるから、みんなで気をつけて、守るんだ。」
本当に真っ直ぐな言葉で、真っ直ぐな気持ちで話して下さるその姿、笑顔、力強さ、とても心に残っています。
会津に来てから1年が経ち、何度か友人が遊びに来ると、大内宿には行っていたのですが、
ここ最近、観光の方がとても多く、なかなかお邪魔してあいさつすることができずにいました。
九月初めに、京都から遊びに来た友人を連れて、再び大内宿へ。
お昼前でもあり、すいていたので、ご主人がいらっしゃるか尋ねてみました。
おそばを注文し、しばらくすると、中から、少しゆっくりと歩いて来てくださる姿が見えました。
体を少しおさえながら座り、
「実は、屋根の葺き替え中に転落してしまって・・・」
驚きで言葉を失いました。
「若い連中に、気をつけろ気をつけろと言いながらねぇ~。
でも、ここまで本当に突っ走ってきたので、休めってことなんだなって思ってるんです。」
初めてお会いした時の笑顔とはまた違う、やさしい笑顔で、そうおっしゃいました。
体が不自由になってみて初めて、いろんなことに気付いたこと。
「健常者にとっては当り前のことが、こんなにも こんなにも・・・」
そう言って、胸の前に両手を広げて、見えないとても大切なものを抱えるように、
「空がこんなにも美しいとは 思っていなかったんです・・・。」
涙が出そうになりました。
大内宿の、この自然豊かな環境で、きれいな空気の中で生まれ育ち、
自然の美しさと共に、生活をされてきた方が、新たに見た空のうつくしさ。
自然のはかなさ以上の、ひとの奥深さを感じました。
私たちが見る空に、同じ空はない。
怪我を受け入れ、むきあい、新たに見えたもの。
生きることに、本当に真っ直ぐな方の言葉は、なんてやさしくて、心に響くのだろう・・・。
今まで、たくさんの空を見てきました。大切な人を失った日の空は、本当に灰色で、何も見えませんでした。
新しい出発の日の空は、どこまでもどこまでも澄みきっているように見えました。
空はつながっている。そう思うと、遠く離れた友人も、近くに感じることができました。
大地に足を付け、空を見上げる
私にしか見えない、新しい空を見るために
これからどんな空に出会えるのだろう・・・
玄粒誌2010年9月号
この文を書いているときは
まさか放射能の舞う空を見ることになるとは
思ってもいませんでした。
今回の墨粋会書展のテーマは
震災後の
「今、私たちの想い」
今回私は、智恵子抄「ほんとの空」より引用させていただき
初めての調和体にチャレンジしました
ほんとの空
智恵子は東京に空がないといふ
ほんとの空が見たいと言ふ
あなたが見ていたほんとの空は
今もここに
ありますか
本当に本当に未熟な作品でお恥ずかしいのですが、
今の私の精一杯で書きました。
いままで、私たちの目に、心に映る空は
当り前にうつくしい空でした。
すべてがほんとの空
だったように思います。
そして今
この空も
ほんとの空
現実の空
・・・・マイクロシーベルト
それでも空は青く
虹を映し出し
まっかな夕焼けは
みんなの帰りを照らしてくれる
自然は変わらずに生きています
変わってしまったのは
共存を見失った
私たち人間
なのかもしれません。